Thursday 28 July 2016

Iris ensata 'Hekigyoku':世界で一番青い花菖蒲


世界で一番青いジャパニーズ・アイリス(Iris ensata)である、花菖蒲 '碧玉'が咲きました。
Iris ensata 'Hekigyoku'
'碧玉'
場所は、畑のナーサリー。
せっかくこんなに珍しい青い花なのに、誰にも見られずにぽつんと立っています。
もったいないけれど、これを見ると、これこそが'Blue Flag'という感じです。
Iris ensata 'Hekigyoku' and Hydrangea paniculata 'Silver dollar'
花菖蒲 '碧玉' と ノリウツギ 'シルバー・ダラー'
来年はメインステージの舞台中央で咲いてもらいますから、そのつもりでお願いします。

本当は碧玉は中生のはずです。それが、あらゆる花菖蒲が終わってからやっと咲き出すとはどういう訳でしょうか?
やはり登場を心待ちにされている大物はトリを務めなきゃ駄目だろうとか、そういう心配りがあったのでしょうか?

いや、しかし、安心しました。この花は去年咲かなかったので、今年こそ咲いてくれとヒヤヒヤしながら見守っていたのです。
日本で一番青い花菖蒲。と言う事はおそらく世界で一番青い花菖蒲です。

たった1本上がった花茎には蕾が4つもありました。一つ終わると1日くらい間が空いて、次の花が咲きます。
この調子だと、咲き始めから咲き終わりまで合計2週間近くかかります。意外に長いですね。

Iris ensata 'Hekigyoku' and Hydrangea paniculata 'Silver dollar'
花菖蒲 '碧玉' と ノリウツギ 'シルバー・ダラー'
さて、この画像の色処理は、実物を正しく再現出来ているでしょうか?ちょっとばかり心もとないのですが、それでもこれだけは言えます。
こんなに青い色のアイリスは、他にはイリス・レティキュラータ(Iris reticulata)でしか見た事が無いと。
イギリスの Pottertons Nursery には、'ハーモニー' 以外にもたくさんレティキュラータがあって、'ハーモニー'よりも青くてほとんどtrue blueの花もありました。4年前だったか注文して買ったことがあります。しかし次の年から「日本には送りません」ですって。うわー、イケズ。
Iris reticulata 'Hermony' in my garden 
朝日と夕日では太陽光の成分が違うので、花の色は微妙に違う色に見えます。
晴天と曇天でも花の色は違って見えます。
更に、同じ一つの花も咲き進むと花弁の色を変えたりします。
そもそも、静岡で咲く花と北海道で咲く花は色が違うそうじゃないですか。
おまけに、パソコンのモニターによって、また部屋の明かりがLEDか自然光かでも画面の色が違ったりして、完全な再現性は望むべくも無いのですが。
Iris ensata 'Hekigyoku'
'碧玉'
碧玉とはjasperの事ですが、この花とは似ても似つかない緑色です。画像検索するとがっかりする事請け合いです。
「青」と「緑」は古い日本語では区別されていなかったからといって、これではあんまりです。

私はこれは瑠璃(lapis lazuli)とでも名付ければ良かったのにと思います。和名があれば本当はタンザナイト(tanzanite)とでも呼びたいくらいです。
この花の紫と青の混じる絶妙な美しさは、タンザニアの夕暮れ時の紫を帯びた紺色の夜空のようです。
ええ、本物を見た事はありません。タンザナイトの石に潜む紫と青の美しいブレンドにため息をつきつつ、未だ見ぬアフリカの大地の夜に思い馳せているだけです。



「碧玉」ではなくて、むしろ「碧」という漢字一文字で画像検索してみて下さい。

青い海と青い空のイメージばかりが出てきます。
そう「紺碧の海」、「紺碧の空」の「碧」ですね。

皆がそう思えば言葉の意味は変わりますから、現代日本語では、もはや「碧」の意味が変わってしまったと言う事です。「碧」とは昔は緑や青緑の事だったが、今では「碧」は「海や空のような深い青」と言う意味。

そういう事です。

だからこの花の名はジャスパーの事ではなく、「青い宝石(blue gem)」という意味だと思っていればいい。

Iris ensata 'Hekigyoku'
'碧玉'
これは、積極的に輸出すべきじゃないでしょうか?
この一品種のことを言っている訳ではありません。花菖蒲というジャンル丸ごとです。
アメリカでも品種改良はされていて、市場にも出回っているらしいのですが、日本の膨大な品種ストックはほとんど日本国内にしか出てないんだと思います。
もったいないですね。

華やかで豪華で、でも似ているようでいてジャーマンアイリスとは雰囲気が違います。

植え場所が違うのもいいと思います。ジャーマンアイリスが調子を悪くする水はけの悪い土地、水浸しでさえなければ池のほとり、小川の側など、いつも湿っていて使いにくい場所が有り難い事に有効利用出来ます。
耐寒性は高い。USDA Hardiness Zone 3-9。ニューイングランドでもアンカレッジでもでも大丈夫(フェアバンクスはアウト)。しかし暑くて乾燥している所には向かないでしょう、オーストラリアの真ん中とかアリゾナとか。湿っていて暑い所も今ひとつでしょうね。マイアミとかミシシッピーとか。生きてても奇麗に咲かないかもしれません。

何よりいいのが花期が遅い事じゃ無いでしょうか?アメリカでもヨーロッパでも薔薇の一番花が咲き終わった後と言うのは庭が寂しくなる時期なので、この時期に咲く花はとても歓迎されるでしょう。
ガーデンメリットは高いですよ。

「大名や旗本など高位のサムライ達が自ら品種改良と栽培に熱中した日本の江戸時代の文化の粋」
などと、海外受けの良いキャッチコピーも付けやすくて良いですよね。

Iris ensata 'Hekigyoku'
加茂花菖蒲園花菖蒲品種画像カタログより
碧玉
(引用)
碧 玉   へきぎょく   HEKIGHOKU

江戸系   中生   もっとも青味の強い青色の平咲き六英花。花径は約16cm程度の中輪。
「碧鳳」の後代で、花はさらに青く、「三河八橋」とならび、花菖蒲のなかでもっとも青に近いと言える。
咲き始めは色が濃く、3日目には薄くなるが、それでも紫味を含まない。遠くからでもこの品種と判るほど、
他の品種とは違った独特の青さを持つ花である。草丈はやや低く、出来て60cm程度か。碧鳳系にしては、
性質繁殖ともまあまあ。花はやや小さいし、花形も今ひとつだが、総合的に見て、評価の高い品種。
1995年、加茂花菖蒲園作


なるほどその通りみたいです。加茂花菖蒲園(加茂花鳥園)のカタログ(花菖蒲データベース)は信頼出来ます。頼りにもしています。

品種改良をやって新品種を世に出しているナーサリーというのは何処も経営が楽ではないだろうと思います。大変なのはどの国であってもそうなのかもしれませんが、特に日本と言う国においては大変なんじゃないかと思うのです。理由はあえて書きませんが。
でも、こうして新品種を出してくれる誰かがいなければ、私達、欲しい花が手に入りませんからね。価値のある仕事にはそれなりの対価を払うべきです。
ナーサリーが潰れたらもう新品種は出ないし、古くていい品種だって誰かが保存して販売してくれなければ消えてしまうのですから、ブランド・ローズが高くても、ツワブキの銘品(私は買いませんが)が高くても仕方ないですね。

Iris ensata 'Hekigyoku'
'碧玉'
碧玉は2000円でした。3回も枯らした薔薇 'ガブリエル'よりずっと安いです。
その価値は十二分にあると思います。青い花好きの皆さんには特にオススメですよ。